鬼さんこちら <8>


「蓮弥」
 ガチャリとドアが開き、橙宕が入って来た。
「どうしました?」
 いつもと変わらない笑みを浮かべたまま、橙宕の方を向いた。
「誰かが・・・・・能力者の気配がする。俺達が片付けておくか?」
 淡々とした口調のまま、近付いている侵入者に対して平静な態度を崩そうとしない。
「そうですね。きっと、朔刃さんを取り返しに来た者でしょうし」
 そして、薄い笑みのまま指示をする。

「最悪の場合、消しても構いませんよ」



 蓮弥の冷酷な指示に焦る事も無く、じゃあと言ってドアを閉めた。
 部屋に残されているのは蓮弥と未だ拘束されている朔刃だけ。
「・・・・・・・だそうですよ、朔刃さん」
「・・・・・・・」
「頼もしいですね、樹嶋の方は。貴女1人の為に、わざわざ来て下さるなんて・・・・・・・」
 そこまで話すと、スッと笑みが消えて表情に嫌悪感を露にする。
「どこまでもガードが堅いのは流石ですが・・・・・・・僕には嫉妬心しか浮かびませんよ」
 まただ・・・・・・・と、思った。
 この蓮弥と云う男は確実に自分と繋がりがあるから、思わせ振りにしか聞こえない言動ばかり起こしている。
 一体、何時・何処で・何があったのか。それだけが判らないので考え様が無い。
 この男は、自分が無くした過去を知っているのだろうか―――――

「貴方は・・・・・・アタシの何を知っているの?」

 朔刃は久し振りに口を開いた。
 その問いにピクリと反応した蓮弥は目を細めながら朔刃の隣に座った。
「本当に何も知らされていない。よく考えてみたら気の毒な方ですね。・・・・・・だが」
 そこまで言うと、キッと睨んだ。
「貴女に受けた屈辱は忘れていませんよ」
「・・・・・・アタシ、から?」


「改めて・・・・・・初めまして樹嶋朔刃さん。僕の名前は樹嶋蓮弥。貴女と同じ樹嶋の血筋の人間です」


 蓮弥の思わぬ言葉に凍り付いた。
「樹嶋・・・・・・?知らないわね」
 同族と言われ同様を隠せないが、朔刃の記憶に蓮弥は居ない。
 記憶を失くす以前に出会っていたとすれば、蓮弥が言っている事は間違い無い。
 秘密裏にされている『朔刃の記憶喪失』も知っていた。ともすれば、男の情報力は諜報部にも匹敵するかも知れない。
 しかし、本当に樹嶋の人間だと云う確証は持てない。
「僕の言っている事が信じられないと言いたそうですね」
「えぇ。貴方の様な卑劣な男が同じ樹嶋の人間だなんて思えないわね」
 先程より口数を増やしているが、警戒心は隠せない。








「此処か―――――」
 蓮弥達の潜伏場所である廃工場に到着した桂丞。
 既に閉鎖されている廃工場だが、能力者にしか気付けない気配が周囲から感じられる。



 入口から3つの人影が視界に入って来た。
「男1人じゃねーか」
「誰でもイイじゃない、言われた事を片付けましょ」
「あぁ」
 桂丞の前に現れたのは、修介・莉那・橙宕、そして3人のアート達だった。

 日中、朔刃を完膚なきまでに打ちのめした3人を見た途端、抑えていようと思っていた感情が一気に溢れ出た気がした。
「俺達は中に居る奴に、無関係者を中に入れるなって言われてんだ」
「どうしてもと言うのなら、俺等がそれを阻止するまでだ」
「邪魔は、させないわよ」
 3人は1歩も引く気は無い。
 チッと舌打ちをすると、桂丞は右掌の何も無い空間から光が纏っている刀を作り出すと、更にそれを2本に増やして所謂、二刀流の状態に変わった。

「・・・・・・雑魚に用は無い」














「・・・・・・ん?」
 窓の外から発光が見えた。
「残念でしたね。朔刃さん、貴女を助けに来た勇敢な方は橙宕達と戦って負けてしまった様ですよ」
 僅かな希望に縋っていたのは嘘では無い。
 思わず目を見開いて窓に目を遣るが、外の様子が判らないものの、何かが衝突した気配を感じる事は出来た。
「あの3人は、アート使いの中ではS級クラスの面々なんですよね。いくら優秀な逸材を揃えた樹嶋のアートでも、あの3人には手を出す事すら叶わない。・・・・・・無力ですね」
 樹嶋に対する嫌悪からか、3人の勝利を確信して優越感に浸っている。
 トントントンと階段を昇って来る足音が聞こえたので、労いの言葉を用意しようと口を開きかけた。

 バタン。

 ドアが開くと同時に、橙宕が満身創痍のフラフラな状態で部屋に入ると同時に倒れた。
「・・・・・・っ、橙宕?どうしたんですか!?」
 慌てて橙宕に駆け寄る蓮弥。

「蓮弥・・・・・・悪ィ、あの男・・・・・・・・・強過ぎる。俺達で何とかする・・・・・・だから、蓮弥は逃げろ・・・・・・」







「・・・・・・っ、どうして・・・・・・・技が・・・・・届かないの・・・・・っ」
「ウソだろ・・・・・・・俺達が相手なのに・・・・・・・・」

 
 入口に立ち塞がっていた3人は、桂丞の一撃で簡単に沈んだ。
 桂丞は2本の刀を持ったまま、周囲を一瞥した。


「妹を痛め付けた礼だ」















「・・・・・・蓮弥、あの男はヤバイ・・・・・・・・お前だけでもイイから、先に行け」
 床に這い蹲った姿勢のまま、橙宕は蓮弥に退場する様に促した。
「・・・・・・使えないな」
「あぁ?」
 スッと立ち上がり蓮弥は冷めた視線で倒れている橙宕から目を逸らすと、初めから橙宕は居なかった様な素振りで棚に置いてある鞄の中から何かを取り出していた。
「蓮・・・・・・弥・・・・・?」

「黙れ。役立たずの分際で意見しないでもらいたい」

 冷徹な口調でピシャリと言い切られ、橙宕は愕然とした様子で口を閉ざした。
 仲間なのに何て一方的なんだ。と、朔刃は他人事ながらも驚きを隠せずにいる。
「せめて見張りぐらいなら出来るだろう、その程度しか役に立たないだろうしな」
 そう言うと、橙宕に目を合わせずにドアの方へ向かって行った。
 蓮弥は外に出ようとした時にピタリと足を止め、背を向けたまま口を開いた。


「朔刃さん、貴方達を絶望の底に堕とす事は――――――願望、生き甲斐。すぐには手を掛けるつもりは有りませんし、誰からの救いも求めさせませんよ」


辛辣な言葉を投げ付けると、そのまま室内から出て行ってしまい、その場には朔刃と橙宕が残され、何とも言えない嫌な空気が流れた。

「あー、えーと・・・・・・」

 さすがに心身的に完膚なまでに打ちのめされた相手に与える言葉が見付からない。
「あの人・・・・・・樹嶋蓮弥、に、反論もしないの?」
 こんな事をしている余裕が無いのは判っているが、妙な空気に耐え兼ねて2人の一連の様子について尋ねた。
 橙宕は少し黙ったものの、仰向けに寝転がりながら痛む身体を休めていた。

「蓮弥は悪く無い。オレが悪いんだ、失敗したオレの責任だ。オレは役に立てなかった」

と、全ての責任は自分に有ると何度も口にしていた。
 まるで、蓮弥が橙宕の絶対神であるかの様な素振りに、蓮弥と云う男に対して恐怖と言うより不気味さの様な感覚を覚えた。


「・・・・・・・・・ん?」
 体勢を直そうと背筋を伸ばした瞬間、橙宕のアート・カサロスによって束縛されている身体に変化を感じた。
 先程まではどんなに足掻いても自由に動かせなかったのだが、僅かながらも自分の意志で身体を動かせる様になっていた。

(もしかして、この人がボロボロになってるって事は、この人のアートも弱体化している。つまり・・・・・・アートとマスターが繋がっているから、力も弱まっているって事・・・・・・?)
 あくまでも推測だが、過去の経験から考えると、間違い無い気がする。
(・・・・・・イチかバチか)
「ねぇ、貴方。ちょっとお願いがあるんだけれど・・・・・・ほら、アタシ上着無くしちゃったから羽織る物も無いでしょう?だから、あの女が置いてったコート羽織らせてもらえない?」
 その程度ならと大丈夫だろうと判断した橙宕は、床に落ちていたコートを拾って朔刃に近寄った・・・・・・瞬間だった。

 右脚を思い切り振り上げると、橙宕の顎に強烈な一撃が直撃した。

 その一撃がトドメだったらしく、橙宕はそのまま床に倒れた。
 数秒後、朔刃の身体の戒めが完全に解けた。

「やったぁ!!」
 完全に自由に動ける様になった身体。
 感覚を取り戻すため、軽いストレッチで身体を動かしたが手が少し痺れている程度なので問題は無いと判断した。
 床に倒れている橙宕を見ると、完全に気絶している。

「この人のアートの様子が変わった事に気付かれているかも・・・・・・迷ってる場合じゃ無いわね」













登場人物紹介
●樹嶋朔刃/アート消失中

●有崎橙宕/アート:カサロス(人型)
●沢修介/アート:漁火(獣型)
●平丸莉奈/アート:蛇鞭(物型)

●樹嶋蓮弥

  • 最終更新:2010-06-17 00:28:23

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