鬼さんこちら <7>


「お兄ちゃん・・・・・・なの?都綺の声じゃ・・・・・・ないよ・・・・・・?」
 桂花は都綺と桂丞を交互に見ながら考えた。
「痛いよぉ・・・・・・・・お兄ちゃん・・・・・・・・ザフォリア・・・・・・・・助けてよぉ・・・・・・・・」

 薄れて行く意識の中、桂丞の手と都綺を握ったまま倒れ、意識を失った。




 一命を取り留めたものの、桂花は何者かの手によりアートを消失させられていた事が判明。
 同時に、桂花を護ろうとした桂丞も何者かの手によって命を絶たれたが、桂花を護りたいと云う一心で自分のアートの都綺と同調。
 結果、都綺に桂丞の魂を憑依して消失した桂花の新たなるアート『都綺』として転生を果たした。


 兄を目の前で殺されたショック。
 本来のアートを消滅。
 左脚の傷痕。
 新たなるアート【都綺】


 アートを受け入れた時の衝撃と桂丞を失ったショックなどが重なり、その衝撃から黒々としていた髪が真っ白に変わった。
 それだけでは無い。自分のせいで桂丞が殺されてしまったと言う激しい悔やみから、アート受け入れと同時に今回の件を含む全ての記憶を喪失してしまった。
 不思議な事に、それまで伸び悩んでいた剣術の腕が一晩の内に跳ね上がり、わずか6歳足らずで門下生をも越える技術を身に付けていた。
 自身に元々備わっていた能力がアートの出会いと共に引き出された。もしくは、桂丞の能力をも吸収してしまったと推測されている。



 桂花がアートを受け入れた夜、首脳陣が集まり、今やアートとなった桂丞こと都綺から2人の間に起こっていた話を受けた。
 その男を追おうとしたが、誰の包囲網に掛からずにいたので樹嶋家周囲に特殊な結界を張って外部からの侵入を防いだ。


 樹嶋桂丞は存在しない人間とする。
 樹嶋桂花が其の男に再び狙われるのを防ぐため、違う名前の人間として生きる。
 今回の件が外部に漏れると其の男が再び手に掛ける事も考えられるので、今回の件は一部の人間を除く樹嶋一族に緘口令を出す。
 全ての者の記憶から樹嶋桂花と樹嶋桂丞の記憶を隠蔽してでも、この件の漏洩を防ぐ。

 全ての者の記憶を調整・管理を終えた頃、一人の少女が樹嶋の名を持って生まれた。


『樹嶋朔刃』


 極薄い水色掛かった銀髪、深海の底を見た様な藍色の瞳。
 その子を見る度に、樹嶋の人間は誰もがデジャヴの様な感覚を覚えた。

『この子、どこかで見た気がする』


 全ての記憶は隠せなかった。
 しかし、当時の状況を考えると充分過ぎる処置法だった・・・・・と、誰かが言っていた。







 








「つまり、【桂花】は【朔刃】と同一人物。都綺の正体が朔・・・・・桂花の双子の実兄、樹嶋桂丞だ」

 そこまで話し終えると、笹女と橘は返す言葉を無くした様子で呆然としていた。
「恐らく、何処かで「朔刃」も「桂花」も同一人物だと云う事に気付いた。昔から忌み嫌っていた青の能力を奪う為に、再び朔刃の前に現れたんだろうな」
「でも、その男って何でアートを奪う能力ってのを持ってるんだ?」
 橘がずっと気になっていた疑問を口にした。
「あぁ・・・・・それはな」


 樹嶋家には高い確率で【黒】の能力を持つ人間と、特殊な【青】と云う真名を持つ人間が生まれるが、それに相反する者も「居た」。
 しかし、朔刃の【青】とは違う特殊能力を持っていた。
 今ほど真名が知れ渡っていなかった頃、樹嶋の中で真名を、それも【青】の能力だけを恐れた人間が居たのだが、何らかの力を受けて【青】の能力者からアートとマスターを完全剥離する力を手に入れた。
 その所為か、その力を持った血筋の人間は真名・アートを授かる事が不可能となってしまった。
 つまり、その能力を受け継いだ男こそが、桂花とザフォリアを。そして朔刃と都綺を引き剥がした。 

 
「・・・・・・・もう、ここまで言ったから隠す事も出来ないが・・・・・・・・」



 一度、空を見上げてから深呼吸置いて口を開いた。



「樹嶋蓮弥―――――奴が朔刃から記憶と兄を奪い、今も尚、朔刃から全てを奪おうと企んでいる」




「・・・・・・・・樹嶋の方・・・・・・・なのですかぁ~?」
「何だよそれ・・・・・おかしいだろ、同じ樹嶋の人間同士だろ!?」

 笹女も橘も朔刃を攫った人物が、自分達と同じ樹嶋の人間である事実に驚愕を隠せない。
「蓮弥の真意は今も昔も判らねぇ。真名を持てなかった事に関しては、早くに亡くした両親・・・・・・いや、先代すら恨んでいたらしい。文武両道・天才と謳われていたが、それは真名不在と云う自分のコンプレックスを払拭するかの様だった・・・・・・・・とも言われている」
「・・・・・・それと、朔刃と何の関係が?」
「全ては真名・・・・・そしてアート。朔刃を生まれながらの天才だとしたら、笹女や橘・・・真名を持って生まれた奴が秀才。それに対して蓮弥は何の素質も持たない凡人だと豪語していた。真名に関しては異常なコンプレックスを持っていたんだ。だから、必ず生まれる【黒】よりも朔刃の様な特殊な【青】を嫌悪していた。高校卒業と同時に、突然樹嶋から姿を消した。そうすれば、樹嶋に関わらずに生きて行けるし、朔刃に手を掛ける事も出来るから・・・・・・とか思ったんじゃねぇの?」

 蓮弥の偏屈な性質に、笹女も橘も眉間を潜めながら話を聞いていた。


「【反逆の狼煙】・・・・・・・・・それが蓮弥を指す隠語。俺達はそう呼んでいる・・・・・・・・・・行くぞ」


 空路はそれきり黙って先頭を歩き出した。




 


 3人が辿り着いたのは、岩壁が立ち塞がった場所。
「・・・・・・・行き止まりだぞ?」
 橘の言い分に頷く笹女。
「ここは樹嶋の【黒】の聖域。代々、当主だけが路を拓く方法を受け継がれているから、お前らが知らないのも仕方無いけどな。笹女、都綺を」
「は、はいですぅ」
 慌てて持っていた都綺を空路に渡した。
「でもぉ・・・・・・・都綺君?桂丞さん?ずっと何も反応を起こしていないんですよぉ?」
 心配そうに尋ねるが、その空気を読んだのか頭にポンと手を乗せて答えた。
「大丈夫だ。さぁ、俺達の出番はコレで終わりだ。後は・・・・・・・お前次第だ」
 そう言いながら、都綺を鞘から抜刀すると、岩壁に剣先を突き刺した。
 岩にヒビが走った瞬間、激しい音と共に全ての岩が崩れ落ちた。
 砂埃が立ち上がった砂塵に咳き込んだが、空路だけはしっかりと前を見詰めていた。
「っ・・・・・・・な、何事ですのぉ~?」
「空路、やり過ぎじゃねぇのか!?」
 少し時間が経ち、砂埃も落ち着いた頃ようやく視界が開けて来た。
「何だ?・・・・・・・空洞?」
「あの岩壁が入口を塞いでいた・・・・・・・ですかぁ~?」
 岩壁の先に見えたのは空洞だった。
 都綺を持ったまま空洞に向かって歩き出した空路に続き、笹女と橘も後ろから続いた。
「こんな所があったなんて・・・・・・・全然知らなかったぜ」
 橘が周囲をキョロキョロしながら感想を口にした。
「・・・・・・・何か、ここ寒い・・・・・・ですぅ~」
 この空洞に入った時から冷たい空気が充満していたので、笹女は両腕で身体を抱き締めた。
 外気の方が暖かかった気がする。
 空路の歩みが止まり、その先に見えた光景に2人は息を飲んだ。



 地表から天井に届く巨大な氷柱。
 天井から氷柱に滴りながら流れる流水。
 氷柱の中に見えたのは朔刃の面影を持った、腰まで伸びた黒髪の男性。
 双眸を硬く閉ざしたまま、まるで何者の侵入をも許さない風貌で氷柱の中に居た。



「これ・・・・・・は・・・・・・?この男、朔刃に似てる・・・・・・・・まさか・・・・・・・・」
「黒髪・・・・・・・の、朔刃ちゃん?」
 橘も笹女も驚愕の眼差しで氷柱から目を離せないでいた。

「いつか帰還する為に身体だけは【黒】の属性の聖域でもある「水」に残していた。魂は死んでない」


 ずっと眠り続けていた。と、加えた。



「この男が朔刃の・・・・・樹嶋桂花の双子の兄、樹嶋桂丞だ」



 
 
 笹女と橘は目の前の光景に唖然としたまま動けないでいた。
 一人で孤独に、一番近い存在でありながら遠くから朔刃を護っていた者との対峙。

「「自分は決して朔刃の前に姿を現さない」・・・この条件で朔刃のアートとして生きると言った。以来、この聖域に護られながら眠っている」


 当時の桂丞は未だ幼かった。
 しかし、朔刃を護る為に自分が犠牲になると言った時、周囲の人間は桂丞の為にそれは止めて欲しいと言ったが、頑なに桂丞は自分の意志を尊重した。
 口では強く言ってたが、まだ幼い少年。自分が兄だと告げたかったかも知れないが、それは妹を危険な目に遭わせる事になってしまうだろう。

 
「永遠に朔刃の前には現れる事は無いと思っていただろうな。だが・・・・・・そんな事を言ってる余裕は無いんだ」
 そう言いながら、再び都綺を抜刀して氷柱に向かって構えた。
「笹女、橘。離れてろ」
 空路の言葉に数歩後退する2人。



「―――――逃げるなよ」



 桂丞に聞こえる様に一言呟き、氷柱に都綺の剣先を突き付けた。

 瞬間、それを切欠に氷柱全体がヒビで覆われるや否や、大きな音を立てながら氷が粉々に砕け散った。
 同時に膨大な冷気が狭い空洞の中に広がり、瞬間的に真冬の様な寒さが訪れる。

 少しの時間を置き、ようやく寒さにも慣れた時、奥の方からカシャンと云う音が聞こえた。

 落ちた氷の欠片を踏んだ音と共に、氷柱の中に居た男―――――桂丞が3人の前に姿を現した。
 笹女が驚いたまま桂丞を凝視する。
 桂丞は自分の身体の感覚を確かめる様に掌を動かしながら笹女の方を振り向く。
「・・・・・・・・」
 朔刃を男にしたらこういう感じなのかなと、思わずドキリとした。
「桂丞、返すぜ」
 空路は都綺を桂丞に向かって投げ渡した。
「・・・・・・夕方、あの時から朔刃との接触が断たれた。朔刃は今・・・・・・何処に居るんだ」
 そう言いながら、今度は都綺を鞘から出したり仕舞ったりと云う動作を繰り返していた。
「あぁ、コレ地図だ。俺達は後から合流する」
「・・・・・・・」
 無言で地図を受け取ると、3人に背を向けて外へと飛び出して行った。


 未だ呆然としたまま夢を見ているのでは?と云う様子の2人の肩を叩いた。
「俺は桂丞を追う。お前等も来るか?」
と、家に居た時と同様の質問を2人に投げ掛けた。
「面倒な事に巻き込まれちまったな・・・・・・最後まで見届けてやるよ。で、笹女はどうするんだ?」

「・・・・・・行きますぅ!!」
 







登場人物紹介
●樹嶋笹女(アート:伊厘/人型)
●樹嶋橘(アート:ブレイク/物型)
●樹嶋空路(アート:函/獣型)

●樹嶋桂丞(都綺の正体)

  • 最終更新:2010-06-17 00:27:16

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