鬼さんこちら <12>


 翌日、召集で集ったのは全体の7割だった。
 急な召集にも関わらず、これだけの人数が揃ったのは目を見張るものがあると言いながら、空路は語り始めた。






 全員の記憶から「桂花」と「桂丞」、そして樹嶋蓮弥の記憶を隠蔽させるに至った経緯。
 今回の事件の全容が語られた。

 全員が朔刃の裏に隠されていた真実に、驚きを隠せなかった。
 話している途中に質問で話を遮られたりはしたが、それでも空路は全てを包み隠さず話した。


「・・・・・・以上だ。最初に言った通り、話すべき事を全部伝えたぜ。で、何か意見のあるヤツはいるか?・・・って、話の最中に質問もあったから補足程度になっちまうけど・・・・・・」
 そう言いながら長話の御供だったコーヒーを飲み干すと、葵が空になったカップに3杯目のコーヒーを注いでいる。

「・・・・・・まだ頭が追い付かないんだが・・・・・・事件前の朔・・・桂花と桂丞に関する記憶も全部、隠蔽してたって事だよな?」
 その男は他の人に比べると正義感が強く少し潔癖症なので、この事件で「隠蔽された」と云う事実を知り、やり場の無い苛立ちを覚えていた。
「それが首脳陣のやる事か。2人は10歳にもならない子供だったんだろ?どうして誰も止めなかったんだ!もっと他に手段はあったハズじゃあ・・・・・・」

「アート」

 男の問いに周囲がざわついたが、空路は全員に聞こえる様な声量で口を開いた。
「全員知ってると思うが、アートは真名を受けた俺達にとって無くては成らない・・・いわば、分身みたいなモンだ」
 コーヒーを一口啜りながら口を湿らせると、再び話し始めた。
「朔刃のアート・・・つまり都綺だな。都綺は死んだ桂丞が具象化、つまりアートとして転生を果たした。最近のアート研究では、死んだ人間の強い想いで誰かのアートとして転生する事も珍しい事では無いらしい」

 そんな事が現実に起こり得るのかと言うザワツキが起こった。
 少し時間を置いて話を続ける。

「アートを失ったマスターは心身喪失を起こす。下手すれば植物状態にも似た症状が起こるとも謂われているが・・・桂花は生きているのがおかしいぐらいの重症を負っていたのと兄を亡くしたショックで、直視出来ないぐらいヤバかったらしいぞ」
「空路。だから、俺が言ってるのはそういう事じゃなくて・・・・・・」
「いつ死んでもおかしくなかった。でも、アートと化した桂丞は「朔刃の生命力」として生きている。単なるアートなんかじゃねぇんだ」

 そこまで話した所で、一呼吸を置く。



「俺らは、何も出来ねぇんだよ」



 シン・・・・・・と、静まり返った。

「それはそうと・・・・・・最初に聞いておくのを忘れてましたわ」
「ん?何がだ?」
「その朔刃さんと桂丞さん、何故この席にいらっしゃらないのです?」
(今頃!?)
 ・・・・・・と、集った全員が心の中で総ツッコミを入れた。

「朔刃か・・・「当主様、後の事ヨロシク!」って・・・面倒事を全部押し付けやがった」
 呆れた様な溜息を吐いたものの、空路は笑っていた。


「まぁ・・・・・・朔刃らしいから別にイイけどな」













 当時の桂丞と死に別れ、邂逅を果たした桂の樹の元に凭れている朔刃が居た。
 朔刃の視線の先に、蓮弥の姿が見えた。

 不思議と驚きは無かった。
 
 何かに導かれる様に此処に来たのだが、まるで待ち合わせでもしていたかの様に蓮弥が来た。
 蓮弥に対する恐怖心は無かった。
 勿論、好意的な気持ちも無かったのだが。


「此処に来る事が判っていた様ですね」
「判りたくは無かったわよ」
「では何故・・・・・・朔刃さんが此処にいらっしゃるんですか?」
「全てはココから・・・・・・アタシの記憶に残っている「最初と最後」の場所よ」
「あの時、秘密の場所・・・・・・と、言ってましたからね」

 淡々と事務的な応答をしている2人。


「今はまだ無理ですが、僕は・・・・・・いつか樹嶋を潰します」
「・・・・・・」

 蓮弥の意志に憤りを覚えたが、右拳を強く握って堪える。

「やはり、僕は樹嶋の血筋が性に合わない様です。でも、此処の血を確実に引いているので、完全なる脱却は出来ません」
「・・・・・・」
「いつかまた・・・・・・貴女を狙うかも判りません」

 その言葉に、グッと身構えた。
「同じ樹嶋の人間でも、アタシが蹴りを付ける」
 朔刃の返事に対して喉を鳴らして笑うと、朔刃に背を向けて歩き出した。

「そうそう・・・・・・一つだけ忠告する事を忘れていましたよ」

 くるりと振り返り、朔刃を指差した。


「僕は、アートを持つ人間全てが優秀だとは思わない」


 遠目で見ると、修介がアートの漁火を従えて蓮弥を待っていた。
 修介と蓮弥が漁火の背に乗り、修介が漁火に合図を出すと、その場から空に駆けて行った。
 朔刃は瞬きもせずに姿が見えなくなるまで、見つめていた。



「・・・・・・行ったか」

 朔刃の影の中から、桂丞が姿を現した。
「最後まで面倒な男だったな。妙な捨て台詞まで残し・・・・・・おい朔刃、どうした」
 ふと見ると、朔刃が脱力した様に座り込んでいた。
「う~・・・・・・緊張の糸が切れたわ・・・・・・」
 苦笑を浮かべながら立ち上がると、樹の幹に持たれた。



 自分は特異種の【青】なので好奇の目で見られ続け、蓮弥は真名を持たない人間だったので誰にも注目される事も無かった。
 持っていると云う事と、持たないと云う事。
 立場こそ違っていたが、本人にしか判らないジレンマは蓮弥と同じだったのかも知れない・・・・・・と、思っていた。
 それが証拠に、先程蓮弥が口にした言葉で、それは確信した。


『アートを持つ人間全てが優秀だとは思わない』


「アイツ・・・・・・誰よりも樹嶋らしい奴だったわね」
「・・・・・・そうか?」
「認めたくないけど、蓮弥も・・・・・・アタシと同じ気持ちだったのね・・・・・・」
「・・・・・・」

 自虐的に哂う朔刃に掛ける言葉が見付からなかった。

「・・・・・・辛気臭くなったわね」
「お前が言い出したんだろ」
「乗っかって来たのは桂丞じゃないの、人のせいにしないでよね」
「は?勝手な事を言い出したのは・・・・・・」
「朔刃ちゃーん、桂丞くーん!」

 2人の会話に割って入って来た笹女の声。
 目を向けると、笹女は伊厘と一緒にパタパタとやって来た。

「やっと見付けたよぉ~。皆、家で待ってるですぅ~、桂丞君を見たいんだって~」
「こんな所で何をしておる。渦中の人間が留守では意味が無かろう、戻るぞ」

「・・・・・・判ったわよ」
「仕方無いな・・・・・・」

 やれやれと云った様子で、足を家の方に向ける。

「う・・・・・・わぁ~、スゴイですぅ!大きな樹ですぅ~!」
 笹女の歓声に、ふと足を止める。
「そうでしょ?」
「うん。すっごい、大きい~・・・・・・こんな場所があったなんて知らなかったですよぉ~・・・・・・」
「笹女。ミイラ取りが何とやらとも言うじゃろう。ゆっくりするのは後からじゃて」
「はぁ~い」

 伊厘に促されながら、笹女が先頭に立って歩き始める。
 笹女の後を歩き出した2人は、ふと足を止めて2人同時に桂の樹を見上げながら口を開いた。



「思い出させてくれて、ありがとう」
「俺達は還って来れた」



 どちらからとも無く、互いに手を握り締めた。





















「「ただいま」」

















Fin






presented by 苑













●樹嶋朔刃/記憶と兄を取り戻した能力者/青鋭蛇
●桂丞/妹と正体を取り戻したアート

●樹嶋笹女/本家の人間として真実を受け入れた/黒清蝶
●伊厘/笹女と兄妹を見守る

●樹嶋橘/半強制で巻き込まれたものの、真実を知る事になる。

●樹嶋葵/朔刃達を見守りつつ、当主の傍らで悠々自適中/黒烈竜

●樹嶋由嗚/朔刃の過去を知っていた数少ない人間の一人。
●有崎橙宕/蓮弥の友達
●沢修介/蓮弥の友達
●平丸莉奈/蓮弥の友達以上、恋人未満

●樹嶋空路/樹嶋家当主。全てを知る者。でも相変わらず飄々/黒快蟲

●樹嶋蓮弥/反撃の狼煙。消された存在、消さざるを得なかった存在。

  • 最終更新:2010-06-17 00:32:42

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