刻限アンサンブル[4]

 ジオストラとラタフィアが滞在しているのは、天まで続く塔と光の塔の中間地点の小島。
 そこに建っている大きな屋敷。
 天気が良ければ両方の塔が見えるのだが、今日は曇り空なので何も見えなかった。
 吹き抜けの応接間で2人がそれぞれ寛いでいる。

「ラタ。機嫌が良さそうだな」
「やっぱり、分かっちゃったかしら?」

 そう言うと、微笑を浮かべた。

「マルカートが帰って来ると思うと・・・・・・ね?」


 チリンチリン


 入口ドアから、呼び鈴の音が響いた。

「「!?」」

 2人は同時にその音に反応してドアの方を向くが、怪訝な様子を隠せない。


「・・・・・・ココには誰も来られない・・・・・・ハズよね?」
 ラタフィアの警戒心に頷くジオストラ。

 チリンチリン、チリンチリン・・・・・・

 今度は何度も呼び鈴の音が続く。
 ドアノブに手を掛けると、ジオストラは無言で頷いた。


「こんにちは」


 ドアの外に居たのは、先日会ったばかりのトセットだった。

「トセットさん・・・・・・?どうして、此処に・・・・・・」
「少々、お話が有りますの。お時間、宜しいでしょうか?」

 2人はトセットを招き入れると、椅子に促した。











Vol.4
Will of a rupture












「・・・・・・何故、此処に来れたか教えてもらいたい」

 椅子に座るや否や、ジオストラがトセットに問い詰めるが、トセットは微笑を浮かべたまま答える。
「此方の事を知っている知人が居ましたの。ですので、その方に飛空庭以外の道を教えてもらいましたわ。ですが、その方が何方なのかはお教え出来ません。プライベートな所まで露見されたく無いですからね」

 隠す事も無く。
 しかし、要点だけを明確に答えた。

「ややこしい話よりも、本題に入らせてもらいます。・・・・・・ハネウタの事です。ハネウタからは私達と共に生きて行くとの言伝を預かっていますわ。つまり、貴方達と一緒に帰らない。と、言う事です」


 真っ直ぐな目で2人を見据える。

「・・・・・・それが、マルカートの答えなのか」
「はい。それと、御聞きしたい事が有ります。ハネウタを含む貴方達が居た『施設』の事を少々調べさせてもらいました。モンスター特性調査・討伐研究・トルマリン使用の許可・・・・・・失礼ですが、ハネウタは其処で何をしていたのですか?」


 先日と同様に、トセットの顔から微笑が消えた。


 2人は顔を見合わせて黙ったが、ジオストラが口を開いた。

「【ポルティエ】でのマルカートは特務戦闘部・魔装隊の副官。一番危険とも言われていた、モンスターのサンプル集め。マルカートは数え切れない程のモンスターと戦い、全ての任務を全うしていた。マルカートに抜けられた今は後任に困っている。忘却した記憶や魔力は何とか出来る。だから、俺達と一緒に帰るべきなんだ」


 ジオストラの話を聞き終わったトセットは、少しの間だけ黙ったまま胸に手を当てた。


「・・・・・・ふざけるな!」


 ブローチの中から、ハネウタが飛び出して来た。
 次いで、トセットが着ていた服からシロフォンが出て来た。

「マルカート?!」

 トセットの両隣に立っていたのはハネウタ、そしてシロフォンだった。
 つまり、2人はトセットに憑依していたのだった。

 ハネウタは自分が居るとジオストラとラタフィアの本心を聞けないと踏んだものの、「何を言われても口を開かない」と云う事を条件でトセットに憑依していたが、あまりの理不尽な内容に条件を自ら破った。

「魔力とか施設とか・・・そんなの判らない。でも、あたしは・・・・・・利用されるだけの魔力や力は要らない!!」

 ハネウタが叫んだ・・・・・・が、その瞬間



 『カナリノ役ニ立ッテイタダケニ・・・・・・』



 頭の中で誰かの声が聞こえ、それが引き金だった様に口を開いた。



「あたしがポルティエを抜け出したのは本気だったんだ・・・・・・あんた達の策略で、ただの道具として永遠に閉じ込められる寸前だった・・・・・・代償なんて幾らでも払ってやるから、自由になりたかった」


 力強く宣言すると、拳を握り締めながらトセットとシロフォンに微笑を浮かべる。

「姉さん、あたしはハネウタだ。マルカートの記憶は残っている。・・・・・・・・・・・・凄く嫌な記憶だ。でも、一つ取り戻せた」

「ハネウタ・・・・・・」
「ハネちゃん!!」

 2人がハネウタの元へ駆け寄ろうとした瞬間、一陣の風がハネウタ、トセットとシロフォンの間を遮った。

 そして、2人の目の前に居たハネウタの姿が消えた。



「ややこしい事になったわね・・・・・・」



 上からラタフィアの声が聞こえた。
 何時の間にか2人の前に、二足歩行ロボットが立ち塞がっており、操作席にはラタフィアが居た。
 そして、ロボの片腕にはハネウタが。

「な・・・・・・何をするんだ!!離せ、離せ!!」

 ハネウタが掴まれたロボットアームを叩くが、ビクともしない。

「ちっ・・・・・・エナジースピア!!」

 詠唱を始めてエナジースピアを放とうとした瞬間、操作席から身を乗り出したラタフィアがハネウタの右手首にリングの様な物を取り付けた。

「・・・・・・え?」

 魔法が発動されなかった。
 それどころか、自らの魔力が薄れている気配を感じる。

「コレはモンスターの魔力を抑える為に開発された魔法物質。・・・・・・貴女が作った物よ」
「な・・・・・・バカ言うな!!こんな物、あたしは知らない!!」


 そう言い、それを引き千切ろうとリングを握り締めたが――――――



 バチバチバチバチッ!!


「うああああ!!!」


「ハネちゃん!!?」

 凄まじいスパーク音と共にハネウタの悲鳴が響き、シロフォンが叫んだと同時にトセットが槍と盾を手に取って逸早く飛び出していた。


 ギィン!!・・・と、金属音が衝突する音が聞こえた先には、トセットが突き出した槍をジオストラがルビーメイスで受け止めていた。

「・・・・・・ホーリーライト!!」

 ジオストラはホーリーライトを放つと同時にメイスを振り下ろす。
 トセットはそれを盾でガードしたものの、左腕にビリビリとした衝撃を受けた。

「・・・・・・貴方は近接型のドルイド・・・・・・そして、彼女はマシンナリーでしたか・・・・・・」

 トセットの質問に無言で頷いた。

「マルカートが過去に戦ったモンスターは数知れず。研究用のサンプルとして、時に騎士団が開催している戦闘演習用として・・・・・・色々な方法で使われているわ」

「・・・・・・何が言いたいの?」
 シロフォンが斧を構えると、今にも飛び出しそうな様子で2人を睨んだ。



「つまり――――――」



 ラタフィアがそう言った瞬間、トセットとシロフォンが立っていた床が観音開きの様に開き、2人はそのままジオストラ・ラタフィア、そしてハネウタの視界から消え去った。


「姉さん!!!?」


 先程の衝撃で項垂れながらも、身を乗り出して2人を追おうとしたが身動きが取れない。


「わぁぁぁぁあ・・・・・・!!」
「シロフォン!!!」

 飛ぶ術を持っていないシロフォン。
 地表への落下を防ごうと、トセットは全速力で羽根を羽ばたかせて落下中のシロフォンの手を掴んだ。
 そして、そのまま十数メートル先の地表へ辿り着いた。


「無事でしたか、フォン?」
「う、うん・・・・・・ありがと、トセちゃん・・・・・・でも、ココは・・・・・・?」


 自分達に何が起こったのかを確認する為に周囲を見回すと、薄暗く広い部屋に居る事が判った。
 すると、上の方からラタフィアの声が響いて来た。



「研究用サンプルでは有るけれど・・・・・・こういう使い方も有るのよ?」



 2人の後方から何かの作動音が聞こえた瞬間、周囲から禍々しい気配を浴びる様に感じた。

「う・・・・・・うわぁぁぁ!!!」


 薄っすらとした室内灯が灯った先に見えた物は、種別を問わず多数のモンスターの大群。



「モンスターの増殖を停めたければ、その装置を破壊する事だ。尤も・・・・・・マルカートに相応しいと思えない御前達には無理だろう・・・マルカートを快く引き渡すと認めたら、装置は停止させてやろう」


 ジオストラはそう言いながら、ラタフィアと捕まっているハネウタと共に部屋を出た。


「お前ら離せ!離せって言ってるだろ!!姉さん・・・・・・姉さんっ!!!」


 上からハネウタの抵抗する声が痛々しく聞こえて来るが、2人はハネウタの声を聞きながら襲い掛かって来るモンスターを退治していた。





「姉さん・・・・・・助けて!」





 その声を聞いた瞬間、2人の中で何かが爆発した。








「当然です!!」
「ハネちゃんを苛めたら、絶対に許さないからっ!!!」







  • 最終更新:2010-11-27 15:05:56

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