刻限アンサンブル[2]

「あたしの本当の名前は・・・・・・マルカート・・・・・・」

 家から一人出て来たハネウタは、ダウンタウンに下りていた。









Vol.2
Each thinking









 頭が追い付かない。
 突然の来客が、記憶を無くす以前の自分を知っている。
 当時の自分は、今では考えられない様な能力を持っていたらしい。
 今の自分は、魔力も経験も豊富では無い。
 格下げしている事は判っている。
 今の自分は、何の為に送還させられようとしているのだろうか?


 頭を抱えながら目を閉じて記憶の糸を手繰り寄せるものの、初めてエミル世界に降り立った時からの映像しか浮かばない。

「・・・・・・あの時は確か、歌を・・・・・・」

 アクロニアに来た時に最初に思い出せた『歌』だけが頼りであったのだが、その歌が何の意味を持つのかが判らない。



「唄ヲ忘れる天使の言葉 輝く欠片を拾イ上げ 声高らかに謳いなさい 声ガ嗄れても 詩は枯れない 天高らかに 響く羽根ノ音」



 呟く様な声で唄ってみるが、やはり何かが判る訳でも無く。




 その頃の飛空庭。
 トセットは受け取ったメモを眺め、溜め息を吐いて首を傾げる。

「私は情報収集には不向きなのですけれど、納得出来ない事が有りますの」
「ハネちゃんの事?」
「それも有りますが・・・・・・まずは、あの御二人が滞在している場所です」

 カップをソーサーの上に乗せて口を拭く。

「あの時は混乱していたので話を受け入れてしまいましたが・・・・・・場所を指定してまで此の場所にする必要が有るのでしょうか?」

 2人が残したメモに書かれていた場所は、モーグシティ付近に有る離れ小島だった。

「私でしたら、落ち着いて滞在出来るモーグシティを選びます」
「・・・・・・だよね。ボクもそうするかも」
「一番気になっている事は、此の場所は一般の者が入る事は禁止されていると云う事です」

 そこまで話した所でシロフォンは軽く頭を悩ませた。

「あくまでも仮定ですが、あの方達は禁止事項すらパス出来る程の正当な権限を持っている・・・・・・と云う事かも知れませんね」




(姉さん・・・・・・あたしなんかの為に・・・・・・)

 ようやく帰宅したハネウタは室内の重苦しい様子に戸惑い、部屋に入るのを躊躇っていた。


「でも!ハネちゃんの為って言ってたけど、あの言い方は酷いよ!!ボクらがハネちゃんに相応しくないなんて言うんだもん・・・・・・」
「落ち着きなさい。あの方・・・・・・ジオストラさんは、ハネウタの事を思ってこそ・・・・・・と、言って・・・・・・」

「姉さん!!」

 居ても立ってもいられず、ドアを勢い良く開いた。

「わぁ!ハネちゃん・・・・・・おかえり」
「お帰りなさい・・・・・・」

 ハネウタの形相に驚いた2人は顔を引き攣らせている。

「何だって?姉さんは何を言ってんだ?「あの2人」って言ってたな。あたしが、いつ、姉さん達が、自分に、相応しくない。だ、なんて言った?」

 そう言いながらシロフォンに詰め寄る。

「いや・・・・・・言ったのはジオストラさんで、ボクらは一言も・・・・・・」
 冷や汗を流しながら引き攣った笑みを見せながら言う。
「ふん。あたしの事を一から知った様な言い方されても困る」
 不機嫌な様子が窺えるものの、少なくとも自分達よりは知っているのではと思ったが、さすがにそれは口に出せなかった。

「ハネウタが・・・・・・ここまで荒れた姿を見るのは久し振りですわ・・・・・・」

 ハネウタは言われている事の意味が判らず数秒ほどポカンとした表情を見せたが、次の瞬間にボッと顔を赤くした。

「ばっ・・・・・・バカ言うな!!あたしは勝手に憶測されるのが嫌いなだけだ!知らない奴なら尚更の事で、別に姉さん達に憶測された方がイイってワケでも・・・・・・」

 全力で反論したせいで頭に血が上ったらしく、軽い眩暈を起こした。
「わっ、ハネちゃん落ち着いて!」
 倒れ掛けた所をシロフォンが慌てて支えた。

「ごめん、フォン姉さん・・・・・・理由が何であったとしても、あたしはアイツらの所には行かない。あたしの家はココだ。トセ姉さんとフォン姉さんが居て、他の奴等も居る。それで充分だ!!」

 キッパリと言い放つと、スッキリした様に息を吐いた。

「・・・・・・うあーん、ハネちゃぁぁん!!!」
「ちょ、姉さん!!?」

 落ち着く間も無く、シロフォンが涙目でハネウタに抱き付いた。
 顔を真っ赤にしながらシロフォンを離そうとするハネウタをトセットが微笑んで見ていた。







「・・・・・・と、信憑性に自信は有りませんが、これが私の仮定です」
 シロフォンはハネウタに自分が導き出した『仮定』を話した。
「幸いな事に、あの方達が再訪問するまで1週間の時間が有りますわ・・・・・・」

 そう言うと、タンスの中から何かを取り出してバッグに仕舞った。

 ハネウタは家から出ようとしたトセットの腕を引いた。

「トセ姉さん・・・・・・行ってらっしゃい」
「はい、行って参ります」
「行ってらっしゃーい」


 トセットを見送り、家に残った2人。


「さてと。もうすぐ昼ゴハンの時間だね。ハネちゃん、お腹空いてるでしょ?何食べる?」
「・・・・・・シチュー食べたい」


 何事も無かったかの様に、空腹を察知したシロフォンはハネウタに食事のリクエストを振る。



 ダウンタウン、何でも屋。

「ん?見ない顔だな。誰だ?」
 トセットは苦笑を浮かべつつ、胸元から偽造許可証を見せる。
「相変わらずですわね」
「こういう仕事だから大目に見ろって言ってんだろ。久し振りだったな、元気だったか?」
「はい、お陰様で。今日は仕事の依頼に参りましたの」
 そう言うと、2人が残したメモを出した。

「時間が有りませんので、単刀直入にお聞きします。此の場所、御存知ですか?」







 トセットが何でも屋に『仕事』を依頼してから2日が経過した。

「お邪魔します」

 何でも屋がトセットを迎え入れると、トセットは近くの椅子に座った。

「人使いが荒過ぎるぜ。2日で終わらせろって・・・・・・」
 ブツブツ言いながらも、書類の入った封筒をトセットに渡した。
「無茶な要望にも応える。それが貴方の御仕事じゃないですか。「何でも屋」さん?」
 そう言いながら、早速書類に目を通し始める。

【タイタニア界研究施設・ポルティエ】と、書かれていた。

「・・・・・・裏が有るっぽいな」
「裏、ですか」

 何でも屋は歯切れが悪そうに言うが、トセットは多少の予想をしていたのだろう。至極落ち着いた様子である。

「奴等はモンスターの研究をしている。研究と言っても、これがまた変わった方法だ。モンスター討伐の為の研究らしい」
「討伐の・・・・・・研究、ですか?」

 理解が少し追い付かず、思わず首を傾げる。

「この施設は平たく言えば『訓練所』って所か。奴等は魔法物質トルマリンを使ってモンスター討伐の為の戦法を研究しているらしいぞ」

 全く予想外の単語が出て来た瞬間、言葉を失った。

「結論から先に言うと、トルマリンの「製造」では無い。あくまでも、モンスター討伐の「研究」と云う名目からトルマリンの使用許可が有るらしい。確実に安全とは言えないが・・・・・・表沙汰にならないのは、利便性から危険性までの研究結果を出しているからで、その研究結果はギルド元宮に居る利益代表を通じて、評議会や騎士団に流れる」

 そこまで聞くと、頭の中を整理する為に目を閉じて言われた事を反復する。

「エミル世界で唯一、タイタニア界とコネクション関係を持っている。ってのが、騎士団や評議会と同等の権限を持っていて、色々な場所に顔が利く理由らしい」
「・・・・・・私共、一般の者には踏み込めない領域の話かも知れませんね・・・・・・ところで、この場所へ行く方法は御存知ですか?」
「知らないな・・・・・・って言っても、どのみち調べてくれって言うんじゃないかと思ってたぜ」

 重ねる様な依頼を予想していたのだろうか、何でも屋は紙に簡単な地図を描き始めた。


「飛空庭での入庭は不可能だった。でも、島へ渡る地下通路が用意されている。それを使えば辿り着く事が出来る」
「何から何まで助かりますわ」


 新たに入手したメモに目を通すと、それを胸元に仕舞った。

「ところで・・・・・・こんな場所に縁も無さそうなのに、一体どうしたってんだ?」

 何でも屋はトセットがこれらの話を出した時から、気になっていた事をようやく尋ねる。




「ただの家族会議・・・・・・ですわよ」





  • 最終更新:2010-11-27 15:02:03

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