刻限アンサンブル[11]

『あたしの話を聞いてもらいたい。「ハネウタ」が欲しがっていた過去の記憶だ』





Vol.11
The past is composed








 あたしはタイタニア族の研究施設で生まれ育った。
 幼い頃より英才教育を施された御陰で、知識と魔力に恵まれた。
 見逃さなかった施設の連中は、あたしをセージへと育たせた。
 初めの頃は、弱いモンスターと戦っていた。
 しかし、気が付いた頃には自分の命を落とすか判らない様な恐ろしい魔物ばかりを相手にするようになっていた。

「怖い。行きたくない」

 あたしの声は、あまりにも小さくて、誰にも届かなくて。


『彼女が居たから我々の研究も軌道に乗れた、かなりの役に立っていただけに・・・・・』

 あたしは奴等にとって、都合の良い手駒だった事を思い知らされた。
 別に、こういう事は今に始まった話じゃない事は判っている。
 知っていたさ。
 あたしの周りには、誰も居なかったから。

 口八丁手八丁で理由を作り、他のタイタニア達と同様に『試練』を受ける為に施設を出る事が許された。


 出発前日、あたしは密かに転送室に忍び込んでいた。
 エミル界に居る腕利きのタイタニア達に紛れても、目立たない様にする作業を施す事。

 それは、魔力と身体を分離させる事。

 万が一、向こうで同僚と会った場合を考えての事。
 姿形が違っていても施設の者は魔力で識別されるので、向こうでは魔力を身体の中に隠しておいて、必要な時に元々の魔力を使える様に操作しておこうと考えた。
 
 魔力体と身体を分離させてから、双方が口を開いた。


「唄ヲ忘レル天使ノ言葉 輝ク欠片ヲ拾イ上ゲ 声高ラカニ謳イナサイ 声ガ嗄レテモ 詩ハ枯レナイ 天高ラカニ 響ク羽根ノ音」


 歌とも詠唱とも思える言葉を並べる。
 これは「歌」であり、魔力操作する為の「鍵」でもある。
 昔読んだ古い詩集の一編だったけれど、それがどんな詩なのかは忘れてしまった。




 此処までが、記憶に残せた。

 でも、その後の事は残せなかった。




 転送作業を進めていた時、ドアが突然開いてジオストラとラタフィアがやって来た。
「マルカート!!」
「やっと見付けた・・・貴女、何しているの!?」
「・・・・・・見付かったか」
 チッと舌打ちをして、2人を見た。
「・・・どのみち明日に発つ予定だったからな。此処に居る理由が判らなくなったんだ」
 自虐的に笑う。
「何言ってるの・・・・・・マルカート、貴女は此処に居るべき者って事ぐらい、判っているでしょう?」
 ラタフィアが困った様に一歩近付いた。
「そうだ。お前は俺達なんかより優れている。何が不満なんだ!!」
「うるさい、黙れ。手駒なら他にも使える奴等が大勢居る。別に、あたしなんかじゃ無くても充分だろう?」
 ピシャリと畳み掛ける言い方に、2人は閉口する。
「・・・・・・どうしても、と言うのか?」
「あぁ。短い間だったが、世話になったな。それは感謝しておく」
 ジオストラが搾り出す様な声で問い掛ける。
 観念したのだろうと思い、背を向けて絶縁宣言をしようとした時。



「え・・・・・・っ・・・?」



 身体を、闇が貫いた。


「御前が持っているデータだけでも貰って行く」

 胸を押さえて振り返ると、そこには闇の光を纏ったジオストラが立っていた。

「ジオストラ・・・・・・?お前・・・どうして・・・・・・闇の・・・・・・」

 目を離せなかった。

 タイタニアの象徴とも言える純白の羽が黒に染まり、もう一対、黒い羽が生まれている。
 青色の瞳が、金色に変わる。
 白と紫を基調とした法衣。

 ・・・・・・この姿、過去に見た事が有る。
 確か・・・『光の塔』の屋上を占拠していた――――――

 そこまで思い出した所で、サッと血の気が引いた。

「ドミニオン・ペナンス・・・・・・」

 かつて、研究チームで同種のドミニオンと交戦した事があった。
 しかし、ドルイドの助けを借りたにも拘わらず、チームが壊滅寸前まで陥った。
 奴の強さは、想像を絶する魔力の高さだった。

「ん?その様子だと・・・・・・気付いていなかった様だな」
「・・・・・・あまり考えたくは無いが・・・・・・ラタフィアもか・・・・・・?」

 ラタフィアが口元に笑いを浮かべた瞬間、ラタフィアの身体が銀色に染まった。

「DEM族・・・・・・」

 其処に居たのは、DEM族と呼ばれるキカイのモンスターだった。
 コイツにも痛い目に遭わされた。
 
「・・・・・・あたしだけじゃなくて、此処の全てを騙していたと云う事か!!」
「全ては此処を・・・タイタニアの世界把握の為。・・・・・・何もしなくとも御前達の情報が集まって来た。これ以上無いぐらい快適だったぞ」
 ジオストラ・・・いや、ペナンスは愉快そうに笑った。

「しかし」

 そこまで言うと、あたしを見た。


「解けようとしているのだ。此処を護っている防衛壁の公式と云うモノがな。」


 あたしは施設を護っている魔防衛システムの責任者。
 決して突破される事の無い鉄壁の・・・・・・いや、完全なる防衛設備にして完璧なる兵器。
 それが、あたしの側に居た理由だろう。

 ―――――辻褄が合う。


「この施設には愛着も何も無いが・・・・・・あたしの所為で変な事になるのは勘弁だ!!」

 丸腰とはこういう事を言うのだろう。
 だが、今は魔力体だった事が不幸中の幸いだ。

「ルミナリィノヴァ!!」


 マジックボールが落とされるのを見て、次に撃つレイビングソードの詠唱を始めようとしたが、


 ノヴァは、あたしに降り注がれた。


「きゃああああああ!!!」

 マジックボールがあたしの身体を押し潰した後に、爆発を起こした。


(迂闊だった・・・壊滅された原因は、奴が使うリフレクション・・・・・・)
 
 身体が吹き飛んで、床に激しく叩き付けられた。

「げ・・・ほっ・・・・・・」

 魔力体と言えども、痛みは訪れる。
 咳き込んだ瞬間、肋骨から骨が軋む嫌な音が聞こえた。

「さぁ、データを寄越せ」

 DEMの足が、あたしの右手を踏み付けた。

「・・・・・・ドッペル・・・ゲンガー・・・・・・」

 転送装置の前に、デコイを召還させる。
 デコイは、あたしが命令を出す前に行動に出ていた。


 ―――転送開始―――


 転送装置の中に居た「身体」が、姿を消した。

「・・・残念だったな。地上に送った「身体」に、全てのデータを移動させた。つまり・・・今のあたしをどうにかした所で、無駄な足掻きだ」

 2人は転送装置を何とかしようと、視線をあたしから逸らした瞬間

「インビジブル!!」

 逃げる為に、インビジブルの魔法で姿を消した。

「しまった・・・逃げられた」
「チッ・・・・・・仕方無い。地上に降りたマルカートを捕らえれば済む事だ」

 短い会話の後、2人は再びジオストラとラタフィアの姿に戻って転送室を出た。







 数分経つが、戻って来る様子は見られない。

「インビジブルブレイク」

 逃げたと思わせていたが、あたしは転送装置の陰に隠れていた。
 ノヴァを受けたダメージがあまりにも大きくて、遠くに逃げる事が難しかった。


 データは移動させていない。逃げる為の、単なるハッタリだった。
 技術開発局の方で管理しているけど、開錠パスワードはあたしを含む5人にしか知らされていないし、その5人が誰なのかは、上層部に居る首脳陣しか知らない。

 だから、アイツらに易々と突破されるワケは無い・・・と、思いたい。



「・・・困った事になったな」

 施設がどうなろうと、あたしには関係の無い事だ。
 だが、あの2人が邪魔に入ったおかげで【記憶と魔力】そして【身体】が完全に分離されてしまった。 
 とにかく、今は地上に降りた「身体」を探し出して、元に戻さないといけない。






 地上に降りた「身体」を発見したが、予想通り魔力と記憶を完璧に無くしているし、14か15歳ぐらいまで低下している。
 しかも、魔力体のあたしが見えていない様で、何度も話し掛けたが聞こえていない。
 それ以上に、身体が虚弱体質に変わっていた事が致命傷だった。
 やはり、無茶をさせてしまったからか・・・・・・。


「唄を忘れる天使の言葉 輝く欠片を拾い上げ 声高らかに謳いなさい 声が嗄れても 詩は枯れない 天高らかに 響く羽根の音・・・・・・って、何この歌?」


 『歌』は完璧に覚えている様で良かった・・・・・・でも、正しいメロディーじゃない。


「素敵な歌詞ですね」
「そうだね~。あと、綺麗な歌声だね!」


 ・・・・・・同族とエミル族?

 取り敢えず、しばらくの間3人を眺めていた。


「・・・・・・そうですね。貴女さえ宜しければ、居候されても構いませんわよ?」
「その気持ちは有り難いが・・・・・・もし、あたしが厄介な問題とか抱えていたら、あんた達に迷惑を掛けるかも知れない・・・・・・・」
「問題・・・・・・私の非力さも問題ですわね。未だにダンジョンに入れません」
「ボクなんて殆ど戦闘した事が無いから大問題だよっ!」


 変わった奴等だ・・・・・・


「・・・・・・会った時に、不思議な歌を唄っていましたわよね?」
「そうだったね。あのまま飛んで行って、空に吸い込まれて行くんじゃないかと思ったぐらい綺麗だったね」
「『羽根』・・・・・・」
「『歌』!!」


 ハネウタ?


「ハネウタ。ハネウタ・・・・・・ハネウタ、ハネウタ・・・・・・」


 その名前、気に入った様だな。


 1ヶ月間、あたしは「ハネウタ」と、周囲の奴等を観察していた。
 そして、結論は出た。


 こいつらになら、身体を・・・「ハネウタ」を任せても大丈夫だな。


 魔力も身体も不安定だから、今直ぐ戻るのはハネウタの命に関わる。
 成長するまで、あたしは休眠状態に入る。
 『歌』を正しく歌える様になった時が、本来の力を取り戻す時。


 心得て欲しい事が有る。
 記憶に近付けば近付くほど、否が応も無く自分が見た真実に出会う。
 お前が自分の意志で記憶と力に会いに来る時まで・・・・・・

 全て、を。預かったからな。











『・・・・・・これが、ハネウタが持って行けなかった全ての記憶』

 ハネウタの記憶と魔力体であり、本来有るべき姿のマルカートが全てを語り尽くした所で、全員が言葉を失った。


 マルカートがハネウタの身体に触れた瞬間、分離していた2つの身体が1つに集まった。


 「マルカート」と「ハネウタ」
 「魔力と記憶」と「身体」


 倒れていたハネウタが目を覚ます。
 髪が伸びていたと云う事を除けば、見た目は以前のハネウタと変わりは無い。
 しかし、魔力だけが明らかに変わっていた。
 此処に居るスペルユーザーのティーエル・グリフェール・リールー。
 3人の魔力を全て合わせたとしても、今のハネウタ1人の魔力には到底敵いそうに無い。


「そういう事だったのか」
「身体が戻ったからと言って、調子に乗るんじゃないわよ」

 ジオストラ・ラタフィアの姿を成していたタイタニアの2人が、ドミニオン・ペナンスとDEMに姿を変えながら立ち塞がった。

 2人の姿を見た全員が武器を構えて戦闘態勢に入ろうとしたが、

「待って」

 ハネウタの声が聞こえた。

「奴等を野放したのは、あたしの責任。でも・・・あたし「達」が、ケリを付ける。だから・・・・・・」
 
 トセットとシロフォンがハネウタの両隣に立った。
 まるで、そうする事が当然の様に。

 全員がハネウタの、トセットとシロフォンの意志を汲んで構えた武器を下ろした。


「あたし達の」
「後ろを」
「護って下さい」








  • 最終更新:2010-11-27 15:18:46

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