刻限アンサンブル[10]

 水晶体に亀裂が入った所で、グリフェールはマジックドリンクを飲み干した。

「グリフェール、お前本当に大丈夫なのか・・・・・・?」
「ん・・・・・・頑張る」


 水晶体は予想に反して、破壊する事が難儀だった。
 傷を付けるまでに何度も魔法を放っているが、グリフェールの魔力に負荷が掛かり思う様に事が進める事が出来ずにいた。

 しかし。

『これ以上、あたしに関わるな!!』

 ・・・と、冷たい態度で突き放そうとした下手な演技。
 挫けそうな自分を見せまいと、強がっているだけ。
 だからこそ、判ってしまった。

 「助けて」・・・と、叫んでいる事に。







Vol.10
Boy meets Girl









 


「魔法だけと思ったら、腕力も有るじゃねぇか」

 攻撃力だけを見ると、明らかにジェディの方が有利だった。
 しかし、ジオストラは近接型スペルユーザーと言っても元々が癒し手である。
 攻撃を受けるとヒーリングで回復。
 ラウズボディで自身への体力を上昇させ、ホーリーフェザーを放って疲弊をリセットさせる。

 ホーリーグローブは回避する事が可能なので被害は少ないが、既に十数回ものホーリーライトを浴びたジェディの呼吸が少しだけ荒くなる。

「・・・・・・調子に乗るんじゃな。マルカートの何たるかを知らないお前らが、マルカートを助けて何の得を得る!!」

 自身にヒーリングを掛けて立ち上がる。
 ジオストラの言葉を聞くと、口角を上げて笑った。


「環境は違うが・・・俺もトセットと立場ってモンは一緒で、考えている事も同じに違いねぇ。今の質問だと俺・・・いや、トセットなら・・・・・・こう答えると思うぜ」







 デュレスに怒鳴られたトセットだったが、静かに微笑んで言う。

「姉だから・・・・・・と言う理由では駄目ですか?」






「下らん。その程度の理由か」

 ジオストラがジェディに向かってホーリーグローブを放つが、上手く避けたものの余波に当てられて数メートル吹き飛んだ。

「ぐぁ・・・・・・っ」

 床に数回バウンドする身体。

「ジェディ!!」
「お前ら、自分の方に集中しろ!!」

 ジェディに気を遣ったものの、一喝を入れられて再び魔力体の破壊に気を切り替える。

 ハネウタはジオストラとジェディの2人から目が離せずにいた。
「ジェディ、もうイイ・・・お前らには関係無・・・」
「生意気な事、言うんじゃねえ。放っておける程、利口じゃねぇんだ」

 小さく笑い、立ち膝のままジオストラに向かって鞭を構えた。


 ひゅん。


 ジェディの前を黒い「線」が奔ったのを見た。

「かは・・・・・・っ・・・・・」

 「線」から目が離せなかった瞬間に、ジオストラの身体に無数の傷が付いていた。
 恐らく、ジオストラ自身にも何が起こっていたのか判っていなかった様だ。

 鞭を放り出しながら床を蹴り、ジオストラとの距離を一気に縮める。
「な・・・・・・っ」
 突然、目の前に現れたジェディに動きを止めてしまう。

 ジオストラの襟首を乱暴に掴んだ。
 怒気を含んだ、静かな声色。


「お前なぁ・・・・・・・・・・・・もう喋るな」



 振り被って固く握った拳が、ジオストラの頬を直撃した。
「・・・・・・!」
 ジオストラは声を上げる事すら叶わないまま、床に沈んで気を失った。


「ったく・・・・・・小難しい奴は面倒だぜ。・・・おーい、悪いけど少し休ませてくれ」
「無茶したもんね・・・ジェディ、君は少し休んでて」
「悪ィ。少し休んだら、すぐ手伝う」

 頷き、再び詠唱を始めた時だった。



「皆でやれば怖くない。って言うよね!」

 疲弊している2人に、温かな光が包み込んだ。

「カー君、シルマ!それに・・・皆、来たんだ!」

 声の方向を振り向くと、待ち侘びていた仲間が再び集った。
 勿論、トセットとシロフォンも一緒に居た。

「ハネウタ!!」
「ハネちゃん!!」
「・・・トセ姉さん、フォン姉さん・・・・・・」

 トセットとシロフォンは座り込んでいるハネウタに向かって駆け出した。
「トセ姉さん・・・フォン姉さん・・・・・・無事・・・?」
「当たり前ですよ・・・こんなに酷い怪我を・・・・・・」
「待ってね、ファーストエイド持ってるからっ」

「おつかれ~グリ!キャンディー食べる?カー君のチョコも余ってるよ?」
「りるのも食べてぇ~」
「シルマ、僕のチョコは食べ掛けなんだけど・・・・・・」
「うん、もう大丈夫だよ。ありがと」

「兄貴・・・グリに比べると異様にボロボロだなぁ。何してたんだ?」
「ほっとけ。雑魚を殴ってただけだ、ヒーリング掛けてくれよ」
「怪我しないで下さいって言ったのに・・・まぁ無理でしょうね」


 
「良かったね、ハネウタ。皆が居るから大丈夫だよ」
「・・・・・・・・・・・・別に・・・・・・」
 グリフェールが微笑みながらハネウタに言うが、その本人はプイッと顔を背けた。
 よくよく見てみると、顔が赤くなっている。

 苦笑を浮かべながら、バッグの中から月の帽子を取り出してハネウタの顔が隠れる様に被せる。

 全員に事情を説明すると、それぞれが配置に付いて武器を構える。
 そして、グリフェールの詠唱を待つ。


「準備、出来たよ」

 その言葉に、全員が武器を構える。
 ラウズメンタルでグリフェールのステータスを上昇させ、ホーリーフェザーで魔力を常時回復状態にさせた。
 深く深呼吸をすると、目を閉じて詠唱を始めた。


「エナジーフレア!!!」


 水晶体が巨大な魔法陣に飲み込まれ、震えている。



「ダンシングソー・・・・・・」

 何度目かの魔法を撃とうとした途端、連発を続けていた代償が訪れた。
 視界が歪み、持っていた本を手離した事に気付いていない。

(あれ・・・・・・?)

 ゆっくり、身体が前方に倒れる。

「グリ!!」

 カーディナルが前方に倒れそうになった身体を支えた。
「危ない危ない。大丈夫かい?」
 肩を支えながら、グリフェールを床に座らせる。
「もー、無理しちゃダメだよ!」
 座ったグリフェールと視線を合わせる様に、屈んだシルマリルが先程グリフェールが落とした本を渡す。
「ごめん。でも、もう少しだから・・・・・・」
 そう言い、再び詠唱を始めようと本を構えるが

「ストップ!!」
と、シルマリルに本を奪われた。
「シルマさん・・・・・・?」
 不思議そうにシルマリルを見るが、そのシルマリルは大袈裟に溜め息を吐いた。


「一大事ってのは判るよ。でも、その為にグリが倒れたりしたら、ハネちゃんは怒るけど喜ばないでしょ!?」

 一喝。

 グリフェールはハネウタの方を見る。
 目深に被った帽子の下から、今まで見た事の無い不安な面持ちでグリフェールを見ていた。

「少し休んだぐらい、誰も怒らないよ。グリが頑張った事は、皆が知ってるからね」
 カーディナルの視線の先を追うと、水晶体の亀裂が深くなっていた。


「グリが居なかったら」
「ここまで出来なかったよ」


 2人の言葉に、思わず口篭もってしまった。


「あ、あの・・・・・・ありが・・・・・・」
「水臭い事、言うんじゃないって!ほら、最後だから、ドーンと派手な魔法でお願い!」
 シルマリルに頭をバシバシ叩かれ、カーディナルに背中を押された。


「エナジーストーム!!」


 グリフェールは渾身の魔力を込め、水晶体目掛けてエナジーストームを放った。
 水晶体の亀裂が拡がった途端、シロフォンとトセットが武器を振り下ろす。

「コレで・・・・・・」
「最後っ!!!」

 水晶体は真っ二つに割れた。
 その瞬間、より強い魔力がハネウタの身体に還って行く。

 パキィィィィン、と云う音と共に、ハネウタの右手首に付けられたリングが粉々に砕け散った。


「やったね!コレで魔力が・・・・・・」

 シロフォンは顔を明るくしながらハネウタを振り向いた。



 しかし。



「ぅ・・・・・・ぁ・・・、何、コレ・・・・・・」


 頭を抱え、顔面蒼白。
 ガクガクと身体が震えていた。
 薄紫色の光が身体に纏わり付く。
 そのまま床に倒れ、意識を失った。


「・・・ハネウタ!!?」
「ハネちゃん!!」

 トセットとシロフォンが慌ててハネウタの元に駆け寄ったが、ハネウタに明らかな異変が起きていた。


 背中まで伸びた、薄紫色の長い髪。
 少しだけ身長が伸びており、宮廷魔術師の服を着ていたのに、今は黒衣のローブを纏っている。
  


『やっと・・・・・・辿り着いた。やっと、会えた・・・・・・』

 

 淡い光が模られ、倒れているハネウタと同じ様な姿を成している、ハネウタが現れた。


 全員が固唾を呑んで、2人のハネウタから目を離せずにいる。



















『あたしの名前はマルカート。お前達が「ハネウタ」と呼んでいる者の、本来在るべき姿』






  • 最終更新:2010-11-27 15:17:42

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