刻限アンサンブル[1]

「・・・成程。明日に控えた出発を待たずに単独で地上に降りた・・・・・・と?」
「そうです。これは条例に反しています。急遽探し出し、措置を・・・・・・」
「彼女ほどの者であれば、特に心配も措置も執る必要は無い」
「ですが・・・・・・」
「この件に関して、彼女に罪は無い。出発が1日早まった程度。そこまで躍起にならずとも良い。それとも・・・・・・何か彼女に対して後ろめたい事でも?」



「・・・・・・どうだった?」
「駄目だった。アイツの信頼は俺達よりも大きいって事か・・・・・・」
「そう・・・・・・これから、どうするつもり?」
「何としてでも、アイツを探し出す。俺達の為にもな」
「面倒な事になったわね」











Vol.1
Declaration of a caller




 













「ハネちゃん、落ち着いた?やっぱり街の人混みは苦手?」

 シロフォンが水と薬をハネウタに差し出す。
「・・・・・・最近は慣れた。今日は少し動き過ぎたから疲れたんだと思う。最近・・・・・・急に頭痛が起こるんだ。すぐ治るんだけど・・・・・・」
 そう言うと、薬を飲み干しながら椅子に凭れて溜め息を吐いた。
「そうなんですか・・・・・・心配ですわね」


 ハネウタは虚弱体質である。
 見た目では判らないが、体力が他人より少しばかり劣っていたのも重なって、憑依でもしていない限りは長時間の戦闘が出来ないが、憑依しても貫通してしまう事が多いと云う悩みを持っていた。
 それでも、最初の頃よりは大分安定して来た方だと本人は言う。



 コンコンとドアをノックする音が聞こえた。
「あら?お客さんでしょうか?はいはーい、今出ますわ」
 トセットがパタパタとドアに向かって駆け出した。
「お待たせしました」
 ドアを開けると、見知らぬ男女2人のタイタニアが居た。

「えっと・・・・・・どちら様、ですか・・・・・・?」


 トセットより年上で、その身形から階級が高い者と云う雰囲気を醸し出していた。
 どうしようかと躊躇していたが、2人はトセットの横をすり抜けて椅子に座っていたハネウタの元へ一直線に近付いた。


「探したぞ」
「やっと会えたわね!」


 そう言いながら、2人は徐にハネウタに抱き付いた。



「・・・・・・な、何だ、お前達!?」


 見覚えの無い他人に抱き付かれ、先程の頭痛は何処へやら、目を点にしながら2人を押し退ける。

「何だとは・・・・・・相変わらずだな」
 男は顔を上げると、苦笑を浮かべた。
「今まで探し続けていた苦労も知らずに・・・・・・」
「まぁまぁ。大目に見てあげましょうよ」


「あの・・・・・・何ですか、貴方達!」
 2人が嬉々としながら話を進めている事に対し、トセットが珍しく乱暴に入り込んだ。

「あぁ・・・・・・これは失礼。我々は彼女を・・・・・・〝マルカート〟を迎えに来たんだ」
「・・・・・・〝マルカート〟?」

 首を傾げて男が口にした名前を反復する。
「・・・・・・?」
 ハネウタは訳が判らないと言いたげな表情を浮かべ、シロフォンに至っては目を点にしたままだった。

 3人の様子を不思議に思った女性は、ハッとした表情を見せる。

「マルカート・・・・・・貴女、もしかして・・・・・・私達の事を覚えていないの?」
「いきなり出て来たお前達に、自分を覚えていないとか言われも困る」
と、素っ気無く答える。

「あのぉ~。ハネちゃん・・・・・・この子は、出会った時から・・・・・・」
「記憶喪失を患っていましたのよ」











 タイタニアの2人。
 男性はジオストラ、女性はラタフィアと名乗った。
 記憶を無くす以前のハネウタを知る人物で、『ハネウタ』の本来の名前は『マルカート・スピリトーゾ』だと説明した。



「・・・ってワケなんだ。行く当てが無いなら一緒に暮らそうって事で、3人で暮らすようになったの」

 トセットとシロフォンはハネウタと出逢った時の事を一から説明していた。

「そうだったの・・・・・・マルカートに限ってトラブルを起こす様な事は無いと思ってたけど・・・・・・」

 事態を把握した2人は、未だ信じられな、・困った。と、言いたい様子で顔を見合わせた。
「此処までが、私達とハネウタの出逢いから今日までの経緯ですわ。何か御質問は?」
「本当に何処から来たとか何をしていた・・・・・と云う様な事も忘れてしまったのか?」
 ジオストラがトセットとハネウタの両人に尋ねるが、2人は首を振るだけだった。

「貴方もタイタニアであるのならば御存知でしょうが・・・・・・私達タイタニアに課せられた『試練』の事だけは覚えていましたわ」
 
「そう・・・・・・だよな。では、マルカートは自分の意志でウィザード・・・・・・今はソーサラーだが、この職業を選んだのか?」
 ジオストラは呼び慣れていた「マルカート」の名前でハネウタに尋ねるが、ハネウタ本人はその名前に慣れないらしく、自分だと気付くまで数秒掛かった。
「本当はウァテスになろうと思ってたが・・・・・・ウィザードの方が性に合ってる気がしたんだ。だから、特に理由なんて無い」
 その答えを聞くと、ジオストラとラタフィアは小声で何か相談していた。

「マルカート。貴女、記憶喪失は完全では無いのでは?」

と、光明を含んだ言い方で笑みを浮かべた。


「そうね・・・・・・掻い摘んで話すよりは最初から話した方が良いわね。少し長くなるけれど、私の話を聞いてもらえるかしら?」






 タイタニア世界の研究施設【ポルティエ】に「マルカート」と呼ばれる女性が在籍していた。
 彼女は生まれながら持ち合わせていた天賦の才から『試練』をパス、高位クラスのセージとして研究員の中では一目置かれる存在だった。
 何不自由無く過ごしていたと思われていたが、自分も他のタイタニアと同様に『試練』を受けたいと直訴したところ、見聞を広めるには良い事だと云う事で、その願いが受理された。
 しかし、出発前日に突然施設から逃亡し、単独でエミルの世界へと出て行った。
 探すのは容易だと思われていたのだが、微量の魔力すら残さず姿を消したので、今此処で再会する為の捜索に膨大な時間と手間が掛かっていた。






「あくまでも仮定に過ぎないが、マルカートは本来ウィザードとしての力を持っていた。しかし、記憶を無くした今もウィザードの道を選んだ。つまり『自分はウィザードだった』との記憶が残っていた・・・・・・と云う事では?」

 ジオストラがこれまでの話を簡潔にまとめてみるが、ハネウタは黙ったままだった。

「マルカート。記憶を取り戻す為にも・・・・・・それに向こうで待っている皆の為にも、私達と一緒に帰りましょう?向こうで対処法を考えてみるから、今はそんなに悩まないで・・・・・・」

 核心とも言える目的をハネウタに伝えるが、それを聞いたハネウタは勢い良く立ち上がり


「・・・・・・姉さん。少し、頭冷やして来る」


 静止の声を背中で聞きながら、返答も無く飛空庭から出て行った。



 部屋に気まずい空気が流れたが、トセットがそれをリセットするかの様に口を開いた。
「申し訳ありません。ハネウタは先程から少し体調を崩していましたので、本日の所は御遠慮頂けますか?」
「そうですね。・・・・・・帰る前に、御二人に御話が有るのですが」
 ラタフィアが話を切り出そうとしたが、ジオストラが先に口を開いた。

「この話は元々マルカート抜きのつもりだったからな。マルカートの面倒を見ていた事には感謝している。だが、お前達以上にマルカートの事を思うからこそ言わせてもらう」


 2人は顔を見合わせながらアイコンタクトを交わす。


「お前達がマルカートと共存する事は相応しくない」

「えっ・・・・・・」
「・・・・・・」
 シロフォンが驚きの声を出し、トセットは無言で眉間に皺を寄せた。
「・・・・・・どういう、理由ですか?」
 トセットの口調は至極落ち着いていたが、いつもの微笑だけは消えていた。
「お前達はマルカートの事を何も知らない。向こうに居た時の彼女は、他者と比べ物にならない程の秀逸した奴だった。此処で記憶や全てを無くした事は悔やまれるが・・・・・・マルカートに余計な入れ知恵をさせる前に・・・・・・」
「ジオストラ、落ち着きなさいよ。・・・・・・ごめんなさい。彼は思った事をハッキリと言うタイプだから・・・気を悪くさせちゃったわね」
 ジオストラの熱弁に静止を掛けたラタフィアは、苦笑を浮かべながらフォローをする。

「磁場の関係で、アクロニア大陸に滞在出来るのは1週間だけ。次に来られるのは数年先になるかも知れないの。滞在先もアクロポリスでは無く、磁場が一番近い場所に宿を借りているわ。だから・・・・・・」

「来週また来る・・・・・・マルカートに伝えておいてくれ」


 遠回しな言い方ではあったが、1週間後にハネウタを連れ帰ろうとしている事が判った。

 滞在先のメモを受け取ってから2人を見送ると、トセットとシロフォンは神妙な面持ちで椅子に再び椅子に座った。


「えっと・・・・・・ハネちゃんの本当の名前でしょ?それから、凄い能力を持っていたセージだった。それから、それから・・・・・・」
「フォン、落ち着きなさい?フォンの気持ちも判りますが、まずは一つずつまとめましょう」
「うん・・・・・・」


 シロフォンは俯きながら不安げに呟いた。










「ハネちゃんと別れるなんて、ボクは絶対イヤだよ・・・・・・」






  • 最終更新:2010-11-27 15:00:25

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