刻限アンサンブル[6]

 トセット達がモーグシティに飛び立ってから約1時間が経過した頃。
 
 ダウンタウン、何でも屋。

 部屋の中で寛いでいた所、バタバタと数人が家の中に雪崩込んで来た。

「な、何だ何だ?揃いも揃って、何の用だ?」

 何でも屋は慌てて立ち上がったが、それに構わずテーブルに写真を1枚置きながら話す。

「急いでいるから知らないとは言わせない。この3人について、知ってる事を教えろ」


 写真に写っていたのは、トセット・シロフォン・ハネウタの3人。











Vol.6
The friends who gathered











「そのリングは」

 そう言うと、ジオストラはハネウタの右手首を指した。

「それは完成体だが、試作用をトセットと云う女にも装着させたとラタから連絡が入った。それよりも性能は劣るが、魔力を停めさせ無理矢理に外そうとすれば、先程の様に防衛装置が働く」




 魔力を使えないトセットだったが、戦いそのものは五分五分だった。
 ラタフィアの操作するロボットからの攻撃を最小限で食い止めつつも、回復魔法を使えない状態なので、倒れる寸前に回復用サプリメントを使用すると云う攻防戦。
 とは言え、持久戦に近付けば近付くほど、生身で闘うトセットが不利である事に変わりは無い。

 一旦、互いに間を取って相手の出方を窺う。

「地下で戦ったモンスター。あれはマルカートが研究用として扱っていたモンスターよ」
「そうですか。それが、どうしましたの?」

 呼吸を激しくさせながらも淡々と答えるトセットに見える様に手の平サイズの鉱石を翳すと、それが光り輝いた。

 その光が薄れた瞬間、トセットは背後から殺気を感じ、振り向く前に盾で頭上をガードする。
 盾を装備している腕から全身に掛けて重い衝突音を受け止めた。

「・・・・・・!?」

 十数体のモンスターが殺気立った様子で、トセット目掛けて一斉に飛び出した。

「くっ・・・・・・ディミソリースピア!!」

 扇状に槍を振り翳すと、モンスター達はその反動で壁目掛けて吹き飛ばされたものの、耐え切ったスカイレイダーが持っていた武器を振り翳して兜割りを放った。

「・・・・・・、ぐぅ・・・っ」

 背中に激しい鈍痛を受けた際に羽根を支える骨にも影響を受けたらしく、羽根を羽ばたかせようとした瞬間に身体中へ激痛が走った。
 それでも何とか残党を一掃させたものの、足元が覚束無い。

「あの頃のマルカートは、セージとして最高の力を持っていた。そのマルカートを『妹』と慕う貴女、その妹を超える事が出来るのかしら?」

 クスクスと嗤う声が聞こえる。







「悪い話では無いだろう?お前が俺達の元に帰ると言えば、あのリングも。そのリングも解除するし、2人への排除行為も停止させる」

(フォン姉さんの安否も判らないし、トセ姉さんも危険な状態・・・・・・あたしがコイツらと行くと言えば、2人は助かる。でも、そうすれば姉さん達と居られなくなる・・・・・・でも、コイツは―――)


「ジオストラ・・・・・・いや、偽者風情が、いつまであたしを騙しておくつもり―――」


「ほう・・・・・・あの時の事は、しっかり覚えている様だな」


 そう言い、ジオストラは部屋にハネウタを残して別室へと移動した。

 ラタフィアの手に有る鉱石が輝くと同時に、新たなモンスター達が召還される。
 これ以上の持久戦は危険過ぎる。

(あの鉱石と、このリングを何とかしなければ・・・・・・勝算が有りませんわね)

 槍を床に突き刺し、右腕に装着されているリングを力任せに掴んだ。
 リングの防衛装置が働いて、掴んだ左手から身体を貫かれる様な激痛が走った。
 掌から鮮血が流れ出て来たが、構う事無く腕からリングを引き剥がそうと歯を食い縛る。

「・・・・・・っ、このぐらい・・・・・・何とも有りません・・・!!」

 ギュッと左手に力を込め、一気にリングを引き千切った。

「ウソ・・・・・・!?無理矢理・・・・・・」

 想定外なトセットの行動に、ラタフィアが驚いた様に声を上げる。

 床に落としたリングを槍で貫き、リングを完全に破壊させた。
 障害物が一つ減ったのだが、自身の体力の状態が好転するワケでも無く、寧ろ逆に身体にダメージを与え過ぎてしまった。


 途端、身体がグラリと揺れて床に倒れ込んでしまう。

 そして、ラタフィアの乗ったロボットの銃口がトセットに狙いを定めた。


「・・・・・・無様、ね」


 カチリ。


 スイッチを入れる音が聴こえた。


 地下の瓦礫の下でモンスター達から身を隠しているシロフォン。

 残党を見ると、間違い無く自分より強いモンスターであるので、迂闊に1体だけ誘き寄せて地道に撃破する事も難しい。
 シロフォンは自分の力不足を嘆かずにはいられなくなった。

「何してるんだろう・・・・・・やっぱり、何も出来ないよ」

 シロフォンは膝を抱えながら顔を埋める。

 悲愴な様子のシロフォンを覗いていたマリオネット達は、困った様子で互いに顔を見合わせる。

『マスター、一人ジャナイ事ヲ、忘レナイデ』

 シロフォンの耳にエレキテルの声が聞こえて来たと思ったら、バッグの中からエレキテルが飛び出した。

「エレキテル!?」

『・・・・・・皆、行クゾ!!』

 シロフォンが合図を出していないのに、マリオネット達が次々とモンスターに向かって駆け出した。

 マリオネット達に気付いたモンスターが、マリオネット達に反撃を仕掛ける。

 閃光、爆音、金属の衝突音、冷気、斬撃。

 マリオネット達も必死に応戦するが、あちこちで力尽きて倒れる姿が幾つも見えた。

「あ・・・・・・ダメ、いやだ・・・・・・皆・・・・・・」

 悲惨な光景を目の当たりにしたシロフォンは、顔面蒼白になりながら身体をガクガクと震わせた。


「皆、止めてーーー!!!」


 声の限り叫ぶと同時に、ドラゴンブローバーを握りながらモンスターの前へ飛び出し、目の前に居たオニックスに向かって斧を振り翳した。

『ダークファング』

 紫黒色の光を纏った魔法球がシロフォンを直撃したが、攻撃を受けていた事を理解出来ないまま壁まで吹き飛ばされた。

 小柄な体型が災いしたのか、ウェイトが少ないので壁に激突した時の衝撃が激しかった事と、右半身から激突したので、右腕と右脚の骨が折れてしまった。

「ぅ・・・・・・痛・・・・・・・・・・・・」

 何とか動く左手で鎌を持ち直して立ち上がろうとしたが、右脚の激痛に耐えられずに壁を伝いながら床に身を預けた。









 ミサイルが放たれ、火薬の香りが鼻腔を掠めたのだが、次に来るハズの衝撃は訪れなかった。

 気付くと、トセットの身体が魔法陣で包まれていた。


「・・・・・・ふぅ。セーフ」
「ギリギリだったね。間に合って良かった!」



 トセットの身体を包んでいたのは、ソリッドオーラの魔法。
 声の方向を振り向いたトセットは、目を見開いて驚いた様子を見せた。


「皆・・・・・・さん・・・・・・?な、何故・・・此処に・・・・・・?」


 グリフェール・ジェディ・ティーエル・シルマリルの面々が居た。










 モンスターの腕がシロフォンに向かって伸びたのが見えた瞬間、シロフォンの視界が遮られた。

「ライトニングスピア!」
「旋風剣!」
「ホーリーグローブ!」


 迷いが無く突き出された槍、空気を切り裂く剣戟。
 光の力を纏った、闇を滅する魔法。

 モンスターは、シロフォンに触れる事すら叶わないまま息絶えた。

「無事・・・・・・とまでは言えないな」
「こんなに無茶するなんて・・・・・・早く治療してあげなよ」
「わわっ、ちょっと待ってねぇー。せーの、ヒーリングっ!」


 傷だらけの身体に温かな光が降り注がれると同時に、全身の痛みがスッと引いて身体が軽くなった気がした。
 そして、未だ戸惑った様子で周囲を見回した。

「デュレス君、カー君、リル・・・・・・何で、こんな所に居るの?」














 トセットとシロフォンの前に訪れたのは、信じられてもいない勝利の神様では無かった。

 全てを預けられる、仲間だった。





  • 最終更新:2010-11-27 15:09:52

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