刻限アンサンブル[3]

 タイタニア族利益代表の元を訪れたハネウタ。


「【ポルティエ】ですか?残念ですが、施設の研究員として働くには力不足ですね」
「そうか。もし、あたしが施設の一員になりたい場合は・・・・・・どれぐらいの力を付けたらイイって目安は有るか?」

 代表は申し訳無さそうに言葉を選びながら言うが、ハネウタは平静を装ったまま本心を悟られない様に矢継ぎ早に質問を重ねる。

「そうですね・・・・・・捉え方は様々かも知れませんが、大体の目安としては・・・・・・高度魔法を習得した辺りだと思います」
「なるほど・・・・・・まだまだ遠いって事か」
「向こうの施設では、危険を伴う研究も多々行われています。身体や技術が、それなりに優秀でいなければいけません。もし貴女が行きたいと言うのでしたら、私の方から紹介状を送っておきますが・・・・・・」


「今の生活に不満は無いから、その必要は無い」









Vol.3
Stubborn will










「ふぅ・・・・・・怪しまれなくて良かった」

 外に出ると軽い緊張感から解放され、目的だった情報収集の成果を残した事に満足感を覚えた。







「つまりね、トセちゃんはファイターだから普通に強い。ハネちゃんは魔法が使えるから強い。ボクには何が有るんだろう・・・・・・」
『Ψηθ●○、δ∽йЩ▼!!ЯЁ¢◇∮Ч!!』
(「マスター、気ヲ落トサナイデ。マスターダッテ、斧ヲ持ッテ戦ッテイルジャナイ。マスターニシカ使エナイ技ダッテアルジャナイカ!」)
「うーん。確かに、有るには有るけどねー・・・・・・」

 家で留守番をしているシロフォンは、トセットとハネウタが居ない事を良い事に、マリオネット達に悩み相談をしている最中だった。

 シロフォンはマリオネストの能力を得てから、マリオネットの言語を理解出来る様になっていた。
 他の人から見るとマリオネットからは「音」しか聞こえていないので、シロフォンの独り言と捉えられがちだったりする。

「エレキテルの言う事は尤もだよ?でもね、ボクって戦闘よりも料理を作ったり、アイテムを作ったり・・・・・・物を作るのが好きなんだ。だから、それしか脳が無いって事になるかも知れないもん」


 そこまで言うと、ポロポロと涙が溢れ出した。


「あの人達が言っていた『相応しくない』ってのは、ボクの事を言ってたのかも知れないんだ」

「おーい、シロフォン・・・・・・って、寝てるよ」
「本当だね。今日は冷えるってのに薄着じゃないか」

 シロフォンが留守番を始めてから小一時間が経過した頃、来客が訪れた。

 カーディナルとデュレスの2人。

 しかし、家主である当の本人はテーブルに突っ伏したまま寝息を立てていた。


「ん?カー君、アレじゃないか。頼んでたヤツって」
 デュレスが目聡く冷蔵庫に貼っていたメモを指差す。
 そのメモには『カー君がチョコケーキを夕方受け取りに来る』と、書かれていた。
「そうみたいだね。でも、シロフォンが起きた頃に再度来る事にするよ。勝手に持って行ったら驚くかも知れないしね」
と、少しばかり名残惜しげな様子で冷蔵庫を見遣った。
「起こさない内に一旦帰るか。気持ち良さそうに寝てるんだし、起こしたら悪い」
「そうだね。シロフォン、また後から来るよ」

「・・・・・・っ・・・・・・」

 退散しようとした2人だったが、シロフォンが何か言葉を発した気がしたので、聞き取ろうと思いシロフォンに近付いた時だった。



「ぅ~・・・・・・マリ、オ、ネット・・・・・・召・・・還・・・・・・アイ、シー・・・・・・」



 その瞬間、シロフォンの影の中からマリオネット・アイシーが飛び出して来た。

『アクアブラスト!!』

 アイシーはアクアブラストの水魔法で、部屋中に水蒸気を張り巡らせた。

「何だ何だ!!?起きてたのか!?」
「違う・・・・・・もしかして、寝惚けてる!?」

 突然のマリオネット発動に驚いた2人は、慌ててシロフォンとアイシーから距離を取った。


「うーん・・・・・・う、わぁ!!いつから居た・・・・・・って、どうしたの?何でそんなにビショ濡れなの!?」

 目を覚ましたと同時に周囲を見ると、カーディナルとデュレスが全身水濡れ状態だった。







「寝惚けてアイシーを召還させてたとはねー。あはは、ゴメンねー」

 2人にタオルを貸して身体を拭かせている間に、冷蔵庫に残っていた材料を使って肉まんを作り、2人に差し出した。
「起きてくれなかったら、この部屋が水浸しになる所だったよ」
 先に身体を拭き終えたカーディナルが椅子に座ってから肉まんに手を伸ばした。

「寝首を掻くと言うより狩られた?次が・・・・・・あっても困るけど、誰かが居る時に発動させるんじゃ無いぞ」
「起こせばイイって事は判ったけど、寝惚けただけでも発動するのは・・・・・・」
「うーん・・・・・・なるべく気を付ける様にするよ」

 苦笑を浮かべながら2人に謝る。
 すると、横からマリオネット達がシロフォンの元に集まって来た。

『▲§□∂∮~●゜Ш=!!』
(「マスターにはトセットさんやハネウタさん、それに我々も居る。此処にも居る2人も。皆がマスターの味方だって事を忘れないでね」)
「ёФЁ◆◇♪υ¢ЦЯ!!」
(「力が無いなんて思わないで。こうやって、一緒に頑張れるよ。それで見返してやるんだ!」)

「皆・・・・・・大好きっ!!」


 マリオネットとシロフォンの遣り取りを眺めていた2人は、当然では有るが何の話で盛り上がっているのかが判らない。
 シロフォンが何かに対して感動しているのだけは理解出来たが、入り込めない雰囲気だったので遠巻きに眺めていた。

「僕達の事、忘れられてないかな」
「オレらも混ぜてくれよ」










「お早う御座います。昨夜は良く眠れましたか?」
「おっはよー。朝御飯、もうすぐ作り終わるから待っててねっ。外の花に水を撒いて来てねー」
「ん、判った・・・・・・」


 いつもの朝。
 いつもの会話。
 いつもの2人の姉。
 いつもと変わらない、一日の始まり


 朝食を終えたトセットは、身支度を済ませるとモーグ炭を1回の移動分だけ補充する。

「ふぅ・・・・・・では、出掛けるとしましょうか」

 そう言うと、操舵輪に手を掛ける。
「トセちゃん。頑張ってねっ!」
「姉さん、頼む」
 声を掛けて来た2人に向かって親指を立てた。



 合点承知。







  • 最終更新:2010-11-27 15:04:11

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